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ちがう、“嗅覚”だ。そのむくんだ顔の中央にある、不快なにおいだけには敏感な鼻のことを言っている。図らずも、その鼻は共産主義者たちを嗅ぎつけるのに“申し分なく”調整された状態にある。

おまえの“個人的な”事情が整ったことは結構だが、我々は今、世界史における重要な政治的問題についてを論じているのだ。

いずれにしろ、過去は過去だ。おまえは未来を、すべての人のための共産主義構築を見据えなくてはならん。

おまえがこれまでに熟考を重ねてきたにもかかわらず、共産主義の0.0001パーセントしか構築できておらん。ひとりでなし遂げるには大きすぎる作業のようだ。これからは何事も“組織的に整理する”必要があるぞ。

とんでもない。ほかの共産主義者への不平不満は、共産主義者にとって必要不可欠な要素のひとつだ。

まただ! このインダストリアル・ハーバーに怪しいにおいが漂っておる。これはまるで…

キツラギ警部補は、おまえのように特定の政治思想のにおいを嗅ぎ分ける、高度に発達した嗅覚皮質を持ち合わせておらんのだ。この場に共産主義のにおいが漂っていることは否定のしようがない。すぐそこにある手すりのほうからにおってきているぞ…!

この香りがわからないというのか? 不満と不安が醸し出す、この独特の香り。“この世界は大々的につくり変えられることを望んでいる”。“必要とあらば、暴力を用いてでも再編成するべきだ”。この香りは、そんな声を運んでくる。

幾年にもわたる混乱… そして無慈悲な資本の流れに呑まれ、打ち砕かれたあまたの希望と夢のにおいだ。

キツラギ警部補がどう思うかなど関係ない。おまえの嗅覚皮質は、すでに政治思想のにおいを嗅ぎつけ、お祭り気分に浸っているも同然。そら、今まさにそこにおまえを導いている… あそこの手すりだ!

とぼけるな。ここまで共産主義のにおいが充満しているのだ、におわないわけがない。どうやら、あっちの手すりのほうからにおってきているぞ…!

まちがいない。そして、どうやらこれは、あそこの手すりのほうからにおってきておる…!

まちがいない。この扉の向こうに、マルティネーズに住む過激派の共産主義者たちが集まっている。