別のセリフ · 1
「思い出せないのは、おまえの脳がダメージを受けてるからだよ、神刑事。トラント」彼はブロンドのほうを振り返る。「おまえの出番だ… 彼の状態はどのくらいひどいんだ?」
「思い出せないのは、おまえの脳がダメージを受けてるからだよ、神刑事。トラント」彼はブロンドのほうを振り返る。「おまえの出番だ… 彼の状態はどのくらいひどいんだ?」
「そうだな… 眼に見える震えはないようだ。ろれつもまわってる。ボートを漕ぐこともできていた。立っているし、論理的思考も働いている。すべていい兆候だね。だけど… 完全な逆行性健忘症だよ、エピソード記憶も意味記憶も…」
「署に連絡があった際の、彼とのやり取りのなかで見られたように… それから“告げ口”するつもりはないんだが」彼は両手の人差し指と中指を軽く曲げ、“告げ口”をダブルクォーテーションで囲む。「以前、彼がわたしとやり取りしたときにも、ハリーには私が誰だかわからないようだった… それらはすべてとても興味深いものだ」
「ああ。興味深い。私も推察しているけれど、まずハリー自身がどう思っているかを聞きたいね。ハリー」彼はあなたのほうを向く。「君に何が起こったのだと思う? 神経学的に? 心理学的に? それに… そうだね、“社会経済学”的に?」
「実際、彼は以前に一度、その理論を私にも主張していました。そのときは信じられませんでしたが、彼はそう確信しているようです。それに、私は彼の働きっぷりも見てきました。彼のやりかたは… 正統派というわけではありませんでした」
「お言葉だが、警部補… あなたはその大馬鹿くそ野郎の幻惑にはまったんだよ。よくあることだ。よくあることではないのは、警官が事件を解決するのに自分の記憶をすっかり消しちまったってとこだ」
「実際には、結局、記憶をすべて消すなんて不可能なんだよ。〈ポテント・ピルスナー〉を1時間に1本飲み干したとしてもな。あいつは、ただたんに嘘をついているだけだ。それか頭がおかしいか。その両方かもしれない」
「興味深い。ということは、まず彼は慎重にそこに足を踏み入れた。用意周到に。きっとそこでアイディアを得たんだろう… そうだ。実践だよ。それから彼は“そこに行く”ためにアルコールを使用した、いわば…」
「そうだね… 私の見解はこうだ。仮に、これが私たちが住んでいる世界への絶対的に正常な反応である場合はどうかな? 仮に、これが重大な異常でないなら? 欠陥としてアプローチすべき、何か説明の必要なものだったら? このあたりの感覚入力を見てくれ…」彼は風景のほうに向かって身振りする。
「あの廃墟やネオンを。ラジオ、群衆の声を聞いてくれ。人々の声を。ここに40年住んでいる人たちの… 刑事ってのは“世界のテープ”磁気読み取り機みたいなものだ… 有名なメタファーを引用して言うとね。ハリーはそれらに対して、ぴったりと寄り添ったんだ。すっかりインプットした」
「わかった、トラント、もういい。完全に無意味だよ。おまえってやつは、ほんとうに左翼の田舎もんだな。やつは重大犯罪班で働くことができるのか、できないのか? やつは今、パァなのか? 俺が知りたいのはそういうとこだ」
「今のところ?」彼はあなたを見て、それからトラントに視線を移す。「質問の言葉をまちがえちまったようだな。俺が訊きたかったのはな、彼は服を着て、便所を使うことができるのか、それとも障害年金に加入させてやらなきゃならんのかってことだ」
「ほお… そうか、おまえじゃないんなら別にいいんだ。おまえは誰かに4万5000リァルの車をやすやすと盗まれて、海に突っ込ませたってわけだな。挙句の果てに、そのまま放ったらかしときた」
「言っておくが、おまえがあれを買えって言ったんだからな。『きっとクールだぜ、ジャン、俺たちに車があれば、すぐに駆けつけられる…』俺は馬術の達者な警官だってよかったんだ。おまえは“自転車”にでも乗っときゃよかったんだ」
「持ってたのね。彼の身分証よ。まちがいないわ」
「俺なら“かなり”をつけ足すがな」彼はあなたのほうを向く。「おまえは支給されてる拳銃をなくした… 酔っ払っているあいだに。見つけられないでいるのも、まだ酔っ払っているからか? おまえはこの瞬間だって酔っ払ってるんだな、そうだろ?」