会話 · ドロレス・デイ
話者 · 27
前のセリフ · 1
応答 · 2
「ちがう、そんなことない… あなたがやっと経済的に自立できるようになったことは、わたしもうれしい。ほんとうよ。でも、それはわたしのためじゃなく、あなた自身のためでなくちゃいけない。わたしには必要ないの。わたしはとにかく、急いで飛行場に行かないと!」
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失敗だ、これは失敗だった。株を買い占められるがごとく、敵に乗っ取られてしまった。壊れ、ねじれた木からつくられた紙幣… おまえはどこまでも狂っていて、終わっている。この女がいなければ、60億リァルあっても正常には戻れない。
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「そうか、新しい男がいるんだな。そんなやつ、俺に比べれば、くそみたいな貧乏人だろうが。灰にしてやる。俺はひとりの人間が持つことを許された以上の金を持っている。自分の裕福さが怖いくらいだ。俺は神より金持ちだ!」
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「声が大きいわ、ハリー」女はそこでいったん黙る。「つき合ってられない。もうあなたの感情の動きに怯えていられない。“馬鹿みたいに稼いでる”とか、全部どうでもいいの。いいからもうわたしを解放して」
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「以前のわたしなら、喜んでその話を聞いたんでしょうね。それも一言一句聞き漏らさないように。あなたがいかに賢くて、正しくて、将来有望な人かを語ったと思う。でも、もうあのころとはちがう。わたしたちは地獄にいて、ここには飛行場しかない。それ以外は退屈なすれちがいだけよ」
聞こえるか? “無意味”とはこういう音だ。意味も、思考も、理論も、すべてが蒸発した。ここにあるのは乾いた静寂と、すでに固まってしまった意思だけ… かわいそうに、そのほかの40億の赤の他人と同じ存在になりさがったということだ。
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「わたしは“星”なんかじゃない。わたしはあなたの心を蝕む、迷える若い女でしかない。“星”も光も存在しないの。未来すらも。ここにあるのはこの邂逅だけ。あとはわたしがどんなことをしてでも行きたいと、心の底から願ってやまない飛行場があるだけ。そこには救済も希望もない」
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“星”は潰えたのだ。この女にも、おまえにも、甦らせることはできない。物質の中にも下にも、何もありはしない。断固とした“拒絶”の意思があるだけだ。かわいそうに、そのほかの40億の赤の他人と同じ存在になりさがったということだ。
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「どっと疲れたわ、ハリー。この一連の会話に、ものすごく疲れた…」女がため息をつく。「わからない? わたしはすでに、あなたと琥珀の中に囚われているの。わたしたちはここから動けない。そんなの、もうたくさん。わたしの未来は飛行場にある。あそこには笑いと安らぎがある… 行かなくちゃ」
壊れはじめている。おまえの全身に亀裂が入っているような感覚がある。その亀裂のあいだから、まず怒りが出てきて、やがて何もなくなる。“女王”も、“しもべ”も、“女王のしもべ”もない。ここにははじめから、その亀裂しかなかったのだ。
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「でもハリー、あなたは全然立ち直ったように見えない。わたしを失って、壊れてしまったみたい。これ以上は正視できない。あなたを見ていると、罪悪感がこみあげてくる。お願いだから、もう行かせて…」
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壊れはじめている。おまえの全身に亀裂が入っているような感覚がある。その亀裂のあいだから、何も出てきはしない。“女王”も、“しもべ”も、“女王のしもべ”も。最初からその亀裂しかなかったのだ。我々は直視できないくらい悲痛な、ひび割れたガラスに過ぎない。だからこの女も顔を背けているのだ。
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「でもハリー、あなたはちっとも意志が強そうな感じがしない。わたしを失って、壊れてしまったみたい。これ以上は正視できない。あなたを見ていると、罪悪感がこみあげてくる。お願いだから、もう行かせて…」
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「あら、ハリー。本気でそう思ってるの? もう何年も話してないのに… わたしから電話なんかしないし、あなたからの連絡も要らない。毎年あなたのことを考える時間が減って、一瞬も思い出すことなく何週間も過ぎることだってある…」
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黒い眼の犬たちが裏路地をさまよい、リンゴの木の痩せこけた枝が、赤と黒のパッチワークのような屋根の上に垂れている。夕陽が沈むレヴァショール西… 女はそこを去り、美しく咲いた。我々の大きな心が届かない、はるか遠方の地で。