会話 · ジョイス・メシエ
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「あら、この世界の“写真”が欲しいの?」女は人差し指を唇に当てる。「まだ、どこからも完全版は出ていなくてよ。作業がなかなか軌道に乗らなくて、苦労しているみたい」(訳注:主人公は自分の疑問が完全に晴れていないという意味で、"I don't feel like I have got the whole picture yet."と言ったものの、ジョイスは“写真”という意味のpictureと誤解して、このように話を進めている)
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「ええ」女はそこで一度言葉を切る。「この世界の表面の72パーセントは〈識域〉に覆われている。各イソラの上空には、灰色のフレアやプロミネンス(炎状のガス)をはじめ、アークまでもが確認されている… 画像は不鮮明なものしかないけれど、あの中にもし球状の何かが存在していたとしたら、とうの昔に砕け散っているでしょうね」
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「“光環”ってなんのことだ?」
「物質が希薄化し、膜となってわたしたちのいるこの惑星の暗色化した円盤部を囲んでいるらしいの。というのも、わたしたちがまだ“惑星”に住めているという前提の話だけどね。それか、広大な帯状の土地が虚空に呑み込まれているところを想像してみたら、もっとわかりやすいかもしれない」
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「ごめんなさい」女が周囲を見まわす。「急性の脳障害を抱えている人に、こんな恐ろしい話を聞かせてしまって。これは科学的な検証をおこなっている実証主義の人たちでさえ、まだ確信にはいたっていない現象よ…」
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「でも… これがわたしたちの時代における、大いなる問いのひとつであることは確かね。ひとたび画像が完成したら、一気に退屈な日常を脱却して、みんなが心をひとつにできるかもしれない。甘すぎる幻想だと思われたってかまわない」
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あなたさまはふと、“そこ”に立っているご自分の存在にお気づきになる… “そこ”が具体的になんなのかは、相変わらずよくわかりませんが、あなたさまは両の腕を脇に垂らし、突っ立っておられる。
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「ごめんなさいね、捜査官」女が周囲を見まわす。「哲学的な見地からすると、ずいぶん恐ろしい話に聞こえるでしょうね。これは科学的な検証をおこなっている実証主義の人たちでさえ、まだ確信にはいたっていない現象で…」
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「かつて、わたしたちはこの世界が球体だと考えていたけれど、日を追うごとにその可能性は低くなっていった。タブロイド紙には載っていない情報だけど、ORG諸国は30年代から気象観測気球を低電離層に打ちあげつづけている」
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「その通りね。この世界には、ドロレス世紀につけられた愛称がある。そのころ、この群島を含め、人々はこの世界に存在する新たな地を次々と発見していた。まさに人類の最盛期といえる時代だった…」
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「そして、広大な水域に、森に覆われた地表がある世界でもある。都市があるところには光が群れをなしている。同じ“モンタージュ”をあなたも見たことがあるでしょう? 誰もが見たことのある光景… 世界はここひとつで充分よ」女が話を締めくくる。